準否定語hardly
仙台校の菊谷です。
早速ですが、やってみたい人は次の問題にチャレンジしてみましょう。
問・空欄にあてはまる語の番号を答えよ
As I had a stomachache, I ( ) ate anything yesterday.
①hardly ②incredibly ③nearly ④possibly (東北学院大)
正解は、①のhardlyです。「おなかが痛かったので、昨日わたしはほとんど何も食べなかった」ということですね。hardlyは準否定語、あるいは程度の副詞と呼ばれ「ほとんど〜ない、どうみても〜ない」を意味します。hardlyと同じ意味をもつscarcely、あるいは頻度をあらわすseldom・rarely(「めったに〜ない」)とあわせて非常に良く取り上げられる用法の一つです。
他の②③④の選択肢についても押さえておきましょう。②のincredibly(「信じられないくらいに」)は、④のpossibly(「ことによると、ひょっとしたら」)同様に、形容詞からつくられた副詞です。③のnearly(「ほとんど、もう少しで」)は、almostと同じく「すんでのところで〜するところ」という意味があり、hardlyなどの準否定語と分けて覚える必要があります。
hardとhardly
ところがどっこい、このように説明し終えたばかりでなんとも気が引けるのですが、hardlyに否定以外の意味がないかといえば、決してそういうわけでもないのです。すでに辞書で確認している人がいるかもしれませんが、hardと同じく、hardlyにも「苦労してやっと、かろうじて」という意味があり、かつてhardlyとhardはまったく同じ意味で使われていました。ではいったいどうして、hardly側は、否定の意味のみが強調されていったのでしょうか。
手掛りを探るために、まずはさきほどの設問①〜④を振り返ってみましょう。それぞれの語の尻尾の「かたち」に注目すれば、いずれも、形容詞にくっつき副詞をつくる接尾辞「-ly」をもっていることがわかります。逆に言えば、①〜④のすべてが、形容詞からつくられた副詞とみなしうることができ、「否定」の意味をそなえていたのが、①のhardlyだけだった、というわけです。くわえて、hardlyの由来は、形容詞hardに接尾辞「-ly」をくっつけてできた副詞ということも押さえておきましょう。
しかし、ここで、「hardそのものが副詞の機能をもっているのに、どうしてわざわざ異なる独立した別の副詞をつくらなきゃならないの?」という疑問が生じますよね。実は、われわれにとって親しみがある「副詞」のhardは、もともと形容詞「heard(=hard)」に接尾「-e」をつけて作られた「hearde」でした。一方で、語尾が「-lic」で終わる形容詞のかたちもあり、この言葉に「-e」をつけてつくられた「heardlice」という副詞もありました。そして、これらの「-e」、「-ce」の部分が消失した結果、ほとんど同じ意味をもつ、hard、hardlyという二つの副詞ができたと推測されています。つまり、わたしたちが普段目にするhardという単語は、本来の形容詞「hard」と、今では失われた語尾「-e」がくっついたかたちの副詞hard[-e]という二つの側面をもっているということです。「見えないかたち」と「見えるかたち」が重なり一つのかたちをつくっているなんて、なんだか不思議ですね。
形容詞・副詞同形の副詞、ならびに-ly型の副詞
ところで、hardのように、形容詞・副詞の意味をあわせもち、かつ「-ly」がくっつかない、いわゆる「同形型」の副詞と、同形型の副詞に「-ly」をくっつけてできた「-ly型の副詞」とが、同時にあらわれた場合、互いに意味がずれていくという現象がしばしばみられます。もともとは同じ意味をもっていたhard、hardlyのうち、かたっぽのhardlyのみが共通の意味を失って、しだいに否定の意味へと収束していったことも、このような現象の一つであると考えられます。
このような「同形型」と「-ly型」の意味の違いに注目させるような設問も、いままで数多く出題されています。いくつか挙げれば、high(高く)・highly(非常に)、just(ちょうど)・justly(公正に)、late(遅く)・lately(最近)、wrong(あやまって)・wrongly(不当に)というところでしょうか。
このようないくつかの経緯を経て、準否定語としての「hardly」が、われわれの前にすがたをあらわした、というわけです。
形容詞から副詞をつくる接尾辞
接尾辞「-ly」は、名詞から形容詞をつくったり、形容詞から形容詞をつくることもできますが、今回のように、形容詞から副詞をつくる事例がもっとも多くみられます。この接尾辞は、規則的な派生をすることに加えて、比較級・最上級のかたちがきまってmore・mostをとることでも知られています。一方で、いくつかの例外に目を光らせる必要もあります。
たとえば、短母音の「-y」で終わる形容詞の場合は、語尾のかたちが「-ily」になります(ex. happily)。また、「-le」で終わる形容詞は、その代わりに「-ly」をつけるため、「可能・適性」の形容詞をつくる接尾辞「-able」「-ible」の副詞形は、ことごとく「-ably」「-ibly」の語尾をとることになります。冒頭で扱った設問の②④は、まさしくそうしてできた副詞というわけです。その他に、語尾の「-e」が消えて「-ly」がくっついた、「whole」「due」「true」由来の副詞形「wholly」「duly」「truly」も忘れるわけにはいきません。
さてさて、「hard、hardlyのふしぎ」、いかがだったでしょうか?それでは、次回「childrenのひみつ」で、三たびお目にかかりましょう。